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おじさんパッカー 英国編(26)

16.06.22

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フリーマーケット

 

ロンドンへ

 

シェイクスピアの町、アポン・エイヴォンを離れて旅の最終章となるロンドンへ向かうため、お世話になった民宿を出てエイヴォン駅へ歩き出す。駅前の空き地で「フリーマーケット」をやっていた。ヒゲ面のオヤジさん、お腹の突き出た中年女性、幼児を連れた若い夫婦など、周辺の町からワゴン車を乗りつけ不用品を売りに来ているのだ。めいめいが自宅から持ってきた陶器や鍋、本やレコードなどを無造作に地面に広げている。そんな店が30軒ほどあった。広場はお宝を物色する人たちで賑わっている。
もの珍しそうにのぞいていると、店番のおじさんが「ひとつどうかね」と大きな鍋を持ち上げた。「これなら大家族でも大丈夫。10人分以上は一度にできちゃうよ」と、迫ってくる。「ノー」と首を振ると、「これなんかどうかね。100年以上も前の茶碗だ。そのうち値があがるから持っていて損はないよ」とくる。慌てて立ち去ろうとすると、「これは値打ちだよ」と、背後からダミ声がしつっこく追っかけてきた。よそ者の私にも気軽に声をかけてきて、異国とは思えない親しみを感じる。

 

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フリーマーケット

 

突然、黒煙を空高く吹きあげながら蒸気機関車がやってきた。観光用の貸し切り列車かも…、団体客が大勢、降りたった。みなさんシェィクスピア見学でしょうか。これまでひっそりしていたこの小さな田舎の駅が、急に華やいだ。皆さん70を過ぎたと思われる方々ばかり。赤や黄色、ピンクと原色まがいの派手な衣服をまとい、イヤリング、ネックレスを身につけ、舞踏会にでも顔を出すような身なりの人もいてその仰々しさに驚く。そして互いに大声で呼び合っては声高に笑っている。残された人生を謳歌するように、お年寄りはここでも元気だ。

 

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蒸気機関車到着

 

12時半、定刻どおりエイヴォン駅を発車した。単線で3両連結の古びた車両で半分ほど席が埋まっている。午後4時前、オックスフォード駅に停車した。ここは世界に知られるオックスフォード大学がある大学都市だ。目につく高いものといえば教会の尖塔が空を突いている程度で、緑に囲まれた低層の住宅で街は埋まっている。

ほどなく、列車がホームを離れる。しばらくして車窓から白い船体が見えた。見渡す限りの緑の平原に船なんてと怪訝に思ったら、どうやら作業船のようだ。デンマークやオランダでも目にしたが、ここイギリスの農耕地にも運河が張り巡らされ、車の代わりに船が使われているという。

午後5時過ぎ、乗換駅、デクトルト・ガイドパーク駅に着いた。時刻表には、5分後にロンドン行きがあると記されているが10分経ってもいっこうに来ない。地元の人も駅員に詰め寄るが「知らない」という。「ここに書いてあるじゃない」と中年女性が、時刻表を差し出す。私も「ここですよ」とダイヤに指を置き、50半ばの駅員に詰め寄るが、「そんな電車ないね」と涼しい顔でやり過ごす。駅員に見放された20人ほどがぼんやりとホームに佇む。線路の周辺は、雑草が生い茂り人家もない。野中の一軒家といった風景だ。

 

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セント・パンクラス駅

 

午後5時38分、ようやくロンドン行きの電車に乗り込む。ほぼ満席状態だ。通路側に席を見つけ腰を下ろす。あごひげをつけた若者と向かい合わせなった。彼はチェロだろうか大きな楽器ケースを抱え、2人分の席を独り占めしていた。電車は、建物が密集する街中をひた走る。

ほどなく、ロンドン市内パテントン駅に到着した。さすがロンドンだ。林立した建物群、大きな駅舎。駅構内にはいく通りにも通路が走り、どこがどこやらさっぱりだ。田舎者がいきなり迷路のような名古屋駅の地下街に放り出されたようなものだ。人の流れに沿って不安げに歩くと、ドーム屋根の中央広場に出た。天井からの陽射しが眩しかった。

ロンドンでの宿、YH(ユースホステル)のあるセントパンクラス駅まで地下鉄で移動するため、洞窟のような地下鉄のホームに佇む。まさにチューブ(管)と呼ばれる2本のパイプが壁を貫いている。車内は勤め帰りの人たちで込み合っていた。程なく目的の駅の表示を見つけ降りた。駅を出て徒歩5分、ホテルは大英図書館の向かいにあった。

ドーヴァーからノッテンガムへ向かった2週間ほど前に予約が入れてある。フロントに顔を出すと、予約した時の青年が対応してくれた。私の顔を覚えていたわけじゃないだろうが、「こんにちは」と、日本語で話しかけてきたのには驚く。 「301」のルームキーを渡され、3階の部屋に移動する。20畳ほどの部屋に6個の2段ベッドがあった。私に与えられたのは窓際の奥のベッド。しかも下だ。落下する心配もなく安心して眠れるぞ、思わず「ラッキー」と小さく拳をつくる。

 

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YH セント・パンクラス

 

ベッドの脇にロッカーが備え付けられてある。エディンバラの梁山泊のような雑然とした部屋とは違って、よく整理整頓され、清潔感が漂っている。ロッカーにリュックやエディンバラから持ち歩いているスコッチウィスキーなどを入れ、日本から持ってきた南京錠をつける。

午後7時、腹がすいたので食堂へ。朝食は宿泊料金に含まれているが、その他は自前で食べる。まずはビール、そして料理を選ぶのも面倒だからお任せの「シェフスペシャル 頂戴!」と声をかけると、調理場からシェフがわざわざ顔を出し私の目を見て会釈した。ほどなく、湯気が立ち昇る出来たばかりの料理を、シェフがわざわざ私のテーブルまで運んでくれた。客が少なかったこともあるが、なかなかサービスがいい。玉子や豆、ジャガイモ、ハムなどいろんなものがひとまとめに大皿に盛り上げられていた。味はまあまあ。ビールがことのほかうまかった。周りのテーブルには家族連れで来ている人もいて、大半が自炊しているようだ。

 

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大英図書館

 

食後、ロビーに顔を出す。10代、20代前半の若者が、テーブルを囲んで談笑していた。ユースホステルはやはり若者が多く、甲高い声が飛び交い華やいでいる。全面ガラスの窓から向かいの大英図書館のレンガ色の壁が見え、片側3車線の道路は車で埋まっている。アポン・エイヴォンの田舎とは違って、車の騒音が消えることがない。

いよいよ明日からロンドン見物だ。どこをどう行くかガイドブックを繰りながら思いをめぐらせる。ロビーにはパソコン、テレビ、新聞、雑誌となんでも揃っている。日本のことが知りたくてネット検索を試みるが、パスワードがなくうまくゆかない。部屋に戻り、シャワー、トイレをすませ、荷物の整理をし、カメラの充電をする。夜11時、就寝。同室の宿泊客は4人くらい。中年のおじさんの顔もあり、親近感をおぼえる。