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おじさんパッカー 北欧編(4)

16.06.21

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オスロ中央駅(ノルウェー)

夏でも雪が降ってるよ

 

3時間のフライトを終えノルウェーの首都オスロに着いた。オランダの眩いばかりの太陽は消え、重く垂れ込めた鉛のような空を見上げながらタラップを降りる。冷気が肌を刺し思わず身震いする。雨模様ということもあるが、午前11時だというのに薄暗い。人影もまばらな通路を歩く。

入国審査はいたって簡単。パスポートを提示したかさえ覚えていない。

名古屋を出て、クアラルンプール、アムステルダムと乗り継いできたが、着替えや洗面用具などこれからの旅先で必要なもの一切が入ったリュックが、無事に届いているだろうか。荷物カウンターへ急ぐ。直径10メーターほどのベルトコンベアーが回転し、今着いたばかりのわれわれ乗客の荷物を吐き出していた。心配そうに覗き込む旅行客が周囲を取り巻いている。20分ほどして大型でハードカバーのスーツケースに押しつぶされそうになりながら、私のリュックが顔を出した。思わず「よかったあ」と叫ぶ。

空港の外に出た。冷たい雨が容赦なく顔に降りかかる。思わずジャンパーのファスナーを首まで上げた。間もなく7月だというのに、寒くて、
暗くて日本の初冬といった感じだ。

電車で1時間ほど、オスロ中央駅に到着。駅に隣接する地下通路は、どこから湧き出てきたのだろうかと思われるほどの人たちで混雑していた。ちょうど12時で昼休みの時間帯と重なり、腹ごしらえに近くのオフイスからもビジネスマンが押しかけているのだろう。

リュックを背負い、ショルダーバッグを提げ、回遊魚のように人の流れに沿って歩いた。飲食店、貴金属店、アパレル、土産物屋と日本の地下街とおなじ景色が続いている。

オスロ中央駅の外に出る。雨上がりの駅前広場のあちこちに小さな水溜りができている。一面に石畳が敷き詰められているが、それもつぎはぎだらけ。あちこちではがれ、深い水溜りが目につく。その水溜りにしゃれたヘルメットをつけた若者が自転車で乗り入れ、周りに水しぶきを浴びせていた。

金をかけないというか、無関心というか…、これがノルウェーの首都オスロの中央駅かと、ピカピカの名古屋駅を思い浮かべながらしばらくたたずんでいた。

 

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こんなところで漢字を見るなんて(オスロ中央駅)

 

駅正面の壁面いっぱいに、いろんな言語のメッセージが掲げられている。

そのなかに漢詩らしきものがあった。タイトルは「相会点」。出会いの場という意味らしい。

走向一争点 順着路標的 決走向一片 等持的渡暖 人生渡旅逢 即座帰着即 走入愛的心 …と続く。

異国で初めてみる漢字に目を取られ、意味不明の詩を見つめていた。その時、背後から声がした。振り返ると20歳半ばの青年が笑顔で近づいて来た。Tシャツ一枚の軽装、大きなリュックを背負っている。

「あなた、この街初めて?」

「今しがた、オスロ空港に降り立ったばかりだ」

「私、上海の学生でオスロに短期留学でやってきた。あんたは中国のどの町の生まれ?」

漢詩を見ていたので私を中国人だと思ったようだ。彼は流暢に英語を駆使した。

「私は日本人だ。観光で来たんだ」と返すと、

「ムンクの叫びを見たりして…、市内観光もいいね」

「いやいや、ノルウェーの最北端ノールカップまで足を運ぶの。白夜を体感しにね」

すると、「ノールカップ?」とそんなとこ知らないなあと言わんばかりに、怪訝な顔で私を覗き込んだ。

私がノールカップまで行くのだと知ると、彼はバス停に腰掛けていた顔見知りらしいおばさんに、「この人ノールカップまで行くんだって」と声をかけた。おばさんは驚いたように立ち上がり「よく、そんな所まで…。噂だと夏でも雪が降っているというよ。大丈夫?」。

ベンチに腰を下ろしていたおばさんやおじさんたちも一斉に私の顔を覗き込んだ。

「そんな北の果てによく行くよ。われわれノルウェーの人間でもめったに行かないよ。極北の民、サーメ人がいるというがね。普通の人が生きてゆけるところじゃないよ」

「草木も生えてないっていうじゃない。時間かけてそんなところへ行ってもね。それより、ここオスロで過ごしなよ。ムンクの叫びや王宮、650体もの大彫刻群のあるヴィーゲラン公園などいっぱい見るところがあるから」

「あんた日本からだって。近くにショーグン(将軍)という日本食レストランがある。スシ、サシミだってあるよ。ノルウェー料理の専門店もあるし、夜には賑わう歓楽街だって…。寒々として何んにもない北極なんぞに行かず、ここオスロで楽しんでいったほうが利口だよ」と、おばさん、おじさんたちが、大きな声でまくしたててくる。

バイキングの子孫だけあって、みなさん骨太で体がでかい。頭一つ突き出た目線で私を見下ろすように「悪いことは言わないから、ノールカップなんかよしなさいよ」と、口々に迫ってきた。

10年前、「白夜なんかより、明るい居酒屋で朝まで飲もうよ」と言っていた、友人の顔がダブル。