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おじさんパッカー 北欧編(3)

16.06.21

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アムステルダム・スキポール空港(オランダ)

アムステルダムからオスロへ

 

隣席は中年の西洋人夫婦だ。近くにトイレがあるので乗客がひっきりなしに、通路側にいる私の横をすり抜けて行く。トイレの前はいつも行列だ。

夜間飛行なので外は見えない。浅い眠りについた。機内食が運ばれてくるたびに目を開ける。動かないのでお腹も空かない。血流が滞るので前の椅子の下に思い切って足を伸ばす。それにしても隣の西洋人はよく食べ、よく飲む。オランダ人なのか夫婦とも骨太でガタイがしっかりしている。室内の照明が落とされ静かになったが、時折、子どものむずかる声が響く。

アムステルダム・スキポール空港でオスロ行きの飛行機に乗り換えることになっているが、そのチケットは手元にない。どうやらオランダ着陸時に空港で手に入れなければいけないようだ。そのことが心配で、機内の係員に質問するが要領を得ない。「間違いなく、オスロへの乗り継ぎができるのか。オランダで高い切符を買わされるはめになるんじゃないか」、そのことが頭の中を堂々巡りする。トイレに立つ人を除けば機内は深い眠りに入っている。チケットのことが気になって眠ろうとするが…、駄目だ。

ようやく空が白んできた。隣の中年夫婦は、窓に顔をくっつけて雲の上から顔を出す太陽を見ようと目を凝らしていた。私も彼らの肩越しに目を向けるが、でかい二人の体で窓が塞がってしまっている。

オランダ時間7時20分、無事ランディング成功。クアラルンプールから14時間あまりの空の旅が終わった。出口にマレーシア航空の女性職員がいて、乗り換え手続きをD窓口でやるようにと指示される。さてそのD窓口がどこにあるかだ。一気に吐き出された400もの人たちが一斉に動き出すものだから、もうなにがなんやら。

壁につけられた案内表示に沿って歩く。目指すDカウンターはすぐに見つかった。すでに十人ほどが列をつくっている。さっそく列の後部につく。豊満で彫りの深い女性係員。突き出た鼻の根元から、くぼんだ紺碧の目玉がギョロリ。私のパスポートを手にして無言でスタンプを押す。あいそなしの無表情。それだけでも萎縮するのに見上げるばかりのでっかい体に圧倒される。何をいわれても「ハイ、ハイ」の一言だ。命令調で態度がでかく、
「なにを偉そうに。私は客なんだ」と言いたかったが、飲み込んだ。

昨夜は乗り継ぎのことで眠れなかったが、思ったより簡単に、入国審査とKLMオランダ航空のオスロまでの搭乗チケットを手に入れる。空港は壁面といい、床といい、待合のベンチまで黄色や橙などの暖色系で統一されている。

開放感たっぷりの大きな窓から、陽射しが射し込んでいる。受付から案内、清掃にいたるまで大半が女性職員だ。

背筋をピンと伸ばし、まっすぐ前を向き大股で足早に眼前を通り抜ける。彼女たちの背後から柑橘類の風が私の鼻をくすぐった。うっとり見とれている暇はない。乗り継ぎ時間はあと数分ほど。チケットを握り締め搭乗口に急ぐ。

100人乗りの中型機だ。7時40分、オスロに向け離陸する。快晴。眼下は芝生や牧草で一面に緑の絨毯が敷き詰められ、オランダの田園風景がどこまでも広がっている。ゴルフ場らしきものがあちこちに点在していた。クラブを握るプレーヤーの姿が肉眼でもはっきり見える。

3人がけ、隣席は生後6ヵ月ほどの赤ちゃんを連れたウガンダからという黒人夫婦。赤ちゃんがむずかるので奥さんがミルクや母乳であやしていた。日本人を初めて見たのか、私の顔を見ると赤ちゃんが泣き止み、不思議そうに目をぱちくりした。手を差し出すと、私に抱かれようと両手を広げた。思わず赤ちゃんに向けシャッターを切る。

 

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じっと見つめる瞳

 

ビジネスマン風の三十過ぎと思える旦那。背広を着込みフォーマルな身だしなみ。終始、ニコニコと笑顔を絶やさない。「私は日本人。名古屋から来た」と言っても彼は首をかしげ反応が鈍い。「トヨタ知っている?」。「オー イエス。ホンダも有名だ」と大きくうなずき、握手を求めてきた。そして色刷りのカラフルな名刺をくれた。

そこで私もワープロで打ち込んだ手製の名刺を差し出す。ローマ字表記の住所に目をやってしばらく無言。「トヨタに近い街からだ」と言うと、ウガンダ人の彼は大きくうなずいた。「TOKYO」、「KYOTО」には反応するが「NAGОYA」はさっぱりだった。「わが大都会、名古屋」は、世界にあまり知られていないことをはじめて自覚する。この先も似たようなことがあったので、「トヨタの近くにあるナゴヤ」を口にすることが多くなった。

雲の峰々がアルプスのようにそびえている。下から見ていると平面だが、実際はこのように上へ上へと突き出ているのだ。下は綿飴を敷きつめたように真っ白い雲の絨毯が広がり、上は紺碧の空。隆起した白雲の山々を縫うように機体が突き進んでゆく。天空を駆けるとは、こんな景色なのだろうとしばらく無我の境地に入る。客室乗務員が顔を出し、ほどなくオスロ空港に到着することを告げた。