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おじさんパッカー 英国編(30)

16.06.22

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英国会議事堂

 

♪♪キンコンカンコ~ン…♪♪

 

ロンドンの街を東西に横たわるテムズ河の川筋が、南北方向に折れ曲がるところがある。ヴォクソール橋からウォータールー橋へ向かう約2キロばかりの流れが、まるで大蛇が鎌首を持ち上げているかのようにほぼ垂直に北の方向に伸び上がってゆく。

その鎌首の根元ヴォクソール橋からテムズ河を行き交う船を眺めながらぼんやり歩いていると、いつの間にかウェストミンスター寺院の前に立っていた。イギリス中世の大規模なゴシック建築といわれるだけあって、見上げんばかりの巨大建造物がそそりたっている。
このウェストミンスター寺院には、歴代国王や王室関係者の他に万有引力のニュートン、進化論のダーウィン、アフリカ大陸を横断した探検家のリヴィングストン、原子物理学の父といわれたラザフォードなど、国家に貢献した人物が眠っており、ここに埋葬されることは英国人にとって大変な名誉とされているようだ。

 

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ウェストミンスター寺院

 

寺院の前には入場を待つ大勢の人が長い行列をつくっていた。入場までどれくらいかかるのだろうかと、最後部の人に声をかけると、「さあ…、2時間くらいかなあ」と不安げな顔で答える。そんなに待たされるのはかなわんなあ。どうせ前に見学したセント・ポール大聖堂とさほど変わることはあるまいと、勝手な理由づけをして列につくことをやめ、テムズ河に戻る。

テムズ河に沿って国会議事堂が南北に長く伸びている。この国会議事堂は、もともとは宮殿で現在でもウェストミンスター宮殿と呼ばれているという。全長約265m、1100を超える部屋、100の階段、中庭数11と、議会政治のシンボルにふさわしい壮大なスケールを誇っている。

 

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ビッグ・ベン

 

国会議事堂の北の端に「ビッグ・ベン」で親しまれている巨大な時計台がある。正式名称はこれまで「クロック・タワー」であったが、2012年6月、エリザベス女王の在位60年を記念して「エリザベス・タワー」に改称されたらしい。呼称とはいえ、どうして「ビック・ベン」か。地元の人は2つの説があるという。建設時の工事責任者で国会議員のベンジャミン・ホール卿の名にちなんだというのと、当時のヘビー級のボクシングチャンピオンの名前からきているというが。真偽のほどはどうかなあ。

♪キンコンカンコーン…♪。日本の多くの学校で使われている始業、終業のチャイムのメロディは、ビック・ベンから流れる「ウェストミンスターの鐘」が元となっているという。本家本元の調べを聴いてみようとしばらく耳を澄ますが…。通りがかりの人から、「毎日、正午に鳴らされる」と聞かされ、すぐさまビッグ・ベンに目をやるとすでに午後1時25分を指していた。

 

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「戦争反対」を訴える男性

 

国会議事堂前の道路を挟んだ向かいで、「戦争反対」のプラッカードやパネル、写真などが立てかけられていた。プラカードのほぼ真ん中にやせ細ったひげ面の50半ばの男性が一人、折りたたみ椅子に腰を下ろし、議事堂を睨みつけている。気骨ある顔だ。米英で始めたイラク戦争やアフガン戦争など、イギリスは戦争当事国なんだから、頻繁に反対運動があるのではと思っていたが、あちこち街中を歩いていても、反対デモもなく具体的な行動はここで目にしただけだ。

 

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三越百貨店がモデルにしたライオン像

 

地図を片手にトラファルガー広場を目指してひたすら歩く。広場に近づくと、高さ50メートルほどもある「ネルソン提督記念柱」を支える台座のライオン像が、今にも飛び出しそうな姿勢で身構えている。柱の台座は3段の階段状になっていて、人目をはばからず抱擁している恋人たちや、車座になって話し込む若い男女。ざっと見て30人ほどが柱の周りを埋めていた。近くで絵葉書を売っているおばさんがいたので「ここはデートスポットですか?」と訊いてみようと思ったが、ロンドンにまで来てそんな馬鹿な質問する自分が恥ずかしくなってやめた。
トラファルガー広場は1805年10月、スペインのトラファルガー岬沖の海戦でイギリスがフランス・スペイン連合艦隊を破り、ナポレオンによる英本土侵攻を阻止した戦勝記念としてつくられた。その海戦でイギリス軍を指揮した、ネルソン海軍提督の功績を称えた石柱が広場の中ほどに空高くそびえている。

 

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トラファルガー広場

 

トラファルガー広場の正面奥に大英美術館がある。入場料は無料だ。イギリスに限らず、ヨーロッパの国々の国立、王立など公立の美術館や博物館はどこも無料。イギリス国民に限らず、世界中のすべての人たちに貴重な芸術作品に接してもらおうとする気概が感じられる。
日本語案内イヤホンを借用(800円)して館内に足を踏み入れる。ここ大英美術館は、フランスのルーブル、ロシアのエルミタージュと並んで世界最高ランクに評価されている美術館だ。絵画などが年代順に展示されている。70近い部屋に分かれていて全部見るのは大変だ。絵の前に立ち番号を押すと日本語のナレーションが流れ、世界に名だたる画家の作品が手の届く所にある。じっくりみようとすると一週間はいるというボリュームだ。丹念にスケッチしている人や絵画の前で瞑想している人などが目につく。

 

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大英美術館

 

美術館を出て近くの地下鉄駅に向かう途中、歩道で80前後の老女が大きなカバンを前にしてため息をついていた。「お持ちしましょうか」と声をかけると、額の汗を右手で拭いながら、「お願いします」とにっこりされた。タクシー乗り場まで運ぶと「ありがとう。ありがとう」と何回もお礼の言葉を連発される。むしろこちらが恐縮するほどだ。これほど感謝されたことは、日本でも経験したことがない。

NHKをはじめ各局の国際ニュースのタイトル画像でよく見かけるのが、テムズ河からの国会議事堂とビッグ・ベン。ロンドンは政治、経済に関わる世界の中心らしい。日本では感じられないものが、ここにはうごめいているようだが…。ロンドンが「世界の窓」といわれても、単なる通りがかりの旅人には街をいくら歩いても、アンテナの感度不良ではそんな画像はまったく浮かばない。