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おじさんパッカー 英国編(7)

16.06.22

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ロケット号

 

チャイニーズだ!

 

「あんたも知っているだろうがイギリスは鉄道発祥の地だ。近くに国立鉄道博物館があるからぜひ行きなさいよ。日本の新幹線車両も展示されているから」と、ホテルのマスターに勧められて地図を頼りに出かけることにした。博物館はヨーク中央駅と隣接していてホテルから歩いて30分とかからない。ビッグイッシュのおじさんに見つからなければいいがと、気遣いながら中央駅の構内に入りホームをまたぐ橋の上に立つ。あちらのホームでも、こちらホームでもイギリスの各地から列車が滑り込み、ところてんの様に人が吐き出されてゆく。駅を抜けると、「ナショナル レールウェイ ミュジィアム」のプレートをつけた蒸気機関車を模したバスが走り去った。丸い小さな窓から子ども達の笑顔がはじけている。しばらく歩くと、出迎えの挨拶が記されたプレートが、ガラス張りの正面玄関に掲げられているのが目に留る。「ようこそ」とひらがなで書かれた日本語のほかに6ヶ国語が並んでいる。イギリスで接した初めての日本の文字だった。

 

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ようこそ

 

この国立鉄道博物館は、1975年に開業したらしい。ヨーク中央駅に隣接する3つの車両庫を展示ホールとして活用し、100両を超える機関車と、約200両の客車・貨車などの他に数10万もの鉄道部品や標識などが収蔵されているという。鉄道博物館の規模としては世界最大級で、常設展示場にはビクトリア女王も乗車したという王室専用客車(ロイヤル・トレイン)などがあり、毎年75万人もの来場者があるらしい。展示されている車両はほとんどが、かつてイギリスの鉄道で使用されていたものらしい。館内に一歩足を踏み入れると、本物の列車が所狭しと並んでいる。その中に日本の新幹線車両を見つけた。古びた列車のなかで真っ白のボディーがひときわ光り輝いている。案内プレートに「2001年に寄贈された〇系新幹線」とあった。ところが日本列島に描かれている新幹線網図は東京、大阪間だけだったので、説明文を熱心に読みふける隣のおじさんに「山陽や東北新幹線もあるよ」と、言おうとしたらおじさんは車体に目をやり私の顔を見て、右手親指を突き上げ「ワンダフル」を連発してくれていた。「極東の国でもこれだけのものがつくれるんだ。感心、感心」とでも思っているようだ。

 

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新幹線

 

さっそくおじさんと2両連結の新幹線車両に足を踏み入れる。すでに乗り込んでいた小学校低学年の子どもたち10人ほどが、プリントを片手に調べ学習をしていた。突然、そのうちの一人が「この電車はチャイニーズ(中国)製だ」と言いだした。他の子ども達も、車内に貼りつけられているプレートに書かれた「窓側」、「自由席」の文字を指さし口々に「チャイニーズ」と叫んでいる。これはまずい訂正しないとと、「チャイニーズじゃない。ジャパニーズだよ」と、プリントに「チャイニーズ製」と書き込んでいる子どもの一人に教えてやった。それでも「違う。チャイニーズだ」と譲らない。「だって漢字(チャイニーズ キャラクター)で書いてあるじゃない」と反発するので、それなら付き添っている先生に「子ども達、間違っていますよ」と言ってやろうと思ったが、そこまですることもなかろう。大人げないと思い直し、新幹線の座席に身を沈め、顔見知りになった調べ学習の子ども達と写真におさまる。前方の壁にディスプレーがあって走行する新幹線の車窓から撮影された、富士山など日本の風景が流れていた。

 

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新幹線 見学時間

 

見学者で賑わっている機関車があった。山高帽のように長い煙突、黄金色の車輪、むき出しのピストン。「ロケット号」のレプリカらしい。ロケット号は、蒸気機関車の父ロバート・スチーブンソンが設計しもので、1830年に世界で初めてイングランド中西部の町、リバプール、マンチェスター間を走り抜けた。最高速度は時速46・6キロだったという。イギリスの産業革命への道を開いたものだ。教科書でよく目にした長い煙突がまっすぐ伸びた「ロケット号」を背景に、次々と見学者が写真におさまっていた。

体育館ほどもある修理工場に進む。天井まで届く幾段もの棚に車輪からレール、車両プレートや食堂車の鍋や釜、食器まで展示されている。鉄道マニアが見たら喉から手が出そうなものばかりだ。等身大以上のスチーブンソンの古ぼけた写真が正面の壁か ら、約200年の時空を超えて訪れたわれわれを見おろしていた。

一息入れようと中庭に出た。「日本の新幹線、凄いね。鼻が高いよ」と、60過ぎの男性がいきなり声をかけてきた。「私が日本人だとどうしてわかったのですか」と正すと、「だって日本語のガイドブックを持っているじゃない」とあっさり一本取られた。横浜から夫婦で旅をしているという。見知らぬ土地で会う日本人、心地よい響きの日本語、「たまらないね」と互いにうなずく。異国にいればこその感動だ。

 

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100年以上前の蒸気機関車が勢揃い(ネットより)

 

ワットが蒸気機関を発明し、スチーブンソンが蒸気機関車をつくった200年近く前、産業革命がイギリスで起こった。見学コースの精錬所のビデオにもあったが、イギリス人の創造力と世界に向けて発信してゆくエネルギーには感じ入る。先人の功績を今のイギリス人たちはどのように感じているのだろうかと…、隣でサンドイッチをほおばっている若者に聞いてみたかった。
実際にイギリスの鉄道を利用していて思うのですが、車体といい、ダイヤ編成といい日本の方がはるかにいい。古びた機関車、雑草がおい茂る線路、信用できない時刻表、こうしてみるとイギリスは疲れた老大国という印象を受ける。しかし、これまで世界の技術革新の先陣を切ってきたのは事実だ。世界一の技術大国と胸張るアメリカにせよ、日本にせよ、すべてはこのイギリスの物まねから始まったのだ。落ちぶれたとはいえ、ゼロから立ち上げた先駆者であるイギリスの偉大さは歴史の金字塔として輝いている。博物館でそんなことをいろいろ考えさせられましたね。