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おじさんパッカー 中欧編(12)

16.06.21

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アムステルダム中央駅ターミナル

 

これまでとは違うぞ!

 

オランダの玄関口アムステルダム中央駅は、プラットホームまで大天井に覆われたドーム型をしている。色あせたレンガの壁が一面に広がり、天井からの光線も乏しく薄暗く古めかしい。ホームは電車から降りたった人たちでいっぱいだ。先を急ぐ人、人、人で何回もぶつかりそうになる。労働者風のジャンパー姿が目につく。ドイツなど隣国からの働き手だろうか。英語やドイツ語など、乗降客が互いに呼び合う様々な言葉が、ドームの天井に響き渡り、あたりは騒然としている。ごった返す人の群れをかき分けるようにして、駅の正面玄関に立った。駅前ターミナルはロータリーになっていて、路面電車やバス、タクシー、乗用車がまるで回遊魚のように、休みなく右回りに回転している。かつて名古屋市内を走っていたような古びた市電やバス、色も形もマチマチなタクシーが目につく。駅から出てきた人たちが、錯綜する車の合間を縫うように、足早に通り抜けて行く。また、車線変更の車が割り込むと、激しくクラクションが鳴り響く。これまでイメージしていた落ち着いたオランダの玄関口とは思えない。これじゃテレビでよく見る車や自転車などが、入り乱れながら無秩序に行き交う東南アジアの街の風景と変わらない。

 

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混雑するホーム

 

見知らぬ土地を一人旅していると、常に警戒心という荷物を背中に背負っている。鎧も鉄砲もなく無防備で戦場にいるようなものだから、当たり前といえばそれまでだ。そんなこともあって新しい街に着くと、まっ先に駅前でしばらく佇むことにしている。とくにその土地の人々の様子を注視する。服装、顔つき、動き等など。柱や壁を背に、あたりに目配せしている人。ベンチや床に座り込むようにして、何をするでもなくただ虚ろに上目遣いでキョロキョロしている人。時には、いきなり近づいてきて話しかけてくる人などがいると、警戒心が異常に高まる。ベルリンやコペンハーゲンなど、これまで通過してきたターミナルとはここアムステルダムは違っていた。旅行者で込み合う時刻表示ボードのあたりでは、3,4人の男たちがあちこちにたむろしていて、得体の知れない眼差しでなにやら物色している。また公衆電話のつり銭ケースに指を突っ込む中年女性や「どこに行くの?」とかを口にしながら近づいてくる若者。とにもかくにも、不慣れな旅行者から巻き上げてやろうとでも考えていそうな視線を、あちらこちらから感じる。まるでアフリカの草原で肉食動物がシマウマやインパラなどの草食動物を狙っているようで、薄気味悪い。

 

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時刻表示ボード

 

駅から一歩踏み出すと船泊まりがある。運河巡りの観光船が舳先をぶつけるように繋がれていた。運河のフェンス沿いには、自転車が山積みされている。それも古びたものばかりで、まるで自転車の墓場だ。オランダの首都の駅正面がこのような光景では、期待を膨らませてはるばる日本から来た私たちを幻滅させる。まるで東京駅前に粗大ゴミ置き場があるようなものだ。
駅前の電車道を横切ろうと信号待ちしていると、周りの人たちは赤信号でも平気で歩き出す。信号無視もいいとこだ。縦横斜めと歩行者は思い通りに進む。初心者の私は信号が変わるまでと立ち止まる。道路に出ようとする人たちに背後から押され、目の前を走る車を見て思わず足を踏ん張る。とにかく物騒で、ごたごたしていて、このまま夜になってはやばい。「早く今夜の宿を決めておかないと」、と焦る。ユースホステルのマークを見つけ駆け込む。バックパッカーの若者で狭いロビーは埋まっていた。応対してくれたインド系の小柄な男性が、「予約で満室。他を探してくれ」という。「そこをなんとか」と粘ったが「ノー、ノー」と私を追い払うように右手を振った。

 

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運河巡りの観光船

 

外に出ると、あちこちにたむろするハンターたちの視線が気になる。午後6時前、このまま夜になっても宿がないなんて…。早く決めないとヤバイ。そんな焦りが背中を押す。看板のしっかりしたビジネスホテルが目に止まった。口髭をたくわえたフロントマンの会釈に吸い込まれるように入る。「4人部屋なら空いているけど」。「一人なんですけど」。「今日の空きはそこしかないね。一泊百五十ユーロ。良かったらどうぞ」。「一人なんだけど、安くならないの」。「それじゃ百四十(一万八千円)でどうだ。これ以下はダメだ」。これまでの倍以上だ。しかし、夜のとばりが迫ってきている。獲物を狙う目線にさらされての宿探しは怖い。知らない土地でとんでもない所に連れて行かれでもしたら。そんなことが脳裏をよぎり、身辺警護の保険代と思い直し、いわれた額をVISAカードで支払う。
部屋は20畳くらい。ベットが4台置かれている。今夜は私一人のようだ。どうやらこの部屋全部4人分を借り切った形だ。 シャワー、トイレが設置されている。カーテンを開くと、正面にアムステルダムの駅舎が飛び込んできた。駅舎は総レンガ造り。正面出入り口の両側に教会の尖塔に似た細長い建物が空に向かっている。東京駅丸の内側駅舎は、アムステルダム中央駅をモデルにしたとされているというが…。

 

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いざアムステルダムの街へ

 

荷物をホテルに置き、セカンドバックひとつで街に出る。思い切り深呼吸し、オランダの空気を胸いっぱいに詰め込んだ。血液にアムステルダムの酸素が巡ったのか、気分も落ち着きダッチマン(オランダ人)になった気分だ。夕食を終え8時過ぎ、部屋に戻る。テレビは、言葉が分からなくとも楽しめるスポーツ番組。チャンネルを変えるが、サッカー、自転車、オートレースがメインだ。日付の変わる12時前、シャワーを使いベッドにもぐりこむ。駅に近いホテルとあって外はざわついている。夜の繁華街に興味があったが、トラブルを避け、夜の一人歩きは控えおとなしく眠ることにした。